システム開発は発注時期で何が変わる?——年度末に間に合わせるなら、前年の夏から動く
システム開発の発注については、進め方の解説が数多く公開されています。要件定義のまとめ方、RFPの書き方、見積もりの比較方法、契約形態の選び方——手順という意味では、調べれば必要な情報はほぼ揃います。
ところが、「いつ動き出すか」だけは、ほとんど語られていません。9,000字規模の網羅的な発注ガイドを何本か確認しましたが、発注時期に触れているものは見当たりませんでした。
先に結論を書きます。小〜中規模の業務システムで3月末の稼働を狙うなら、前年の夏から秋には相談を始めるのが目安です。
受注する側には、統計に表れるほどはっきりした年間の波があります。そしてこの波は、発注する側から見ると金額より「声をかけられる会社の数」に効いてきます。以下、公的統計の実数を示したうえで、順に説明します。
データで見る、受託開発の1年
経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」では、情報サービス業の売上高が月別で公表されていました。このうち受注ソフトウェア(受託でのシステム開発にあたる区分)の2024年の数字を並べると、はっきりした形が現れます。
なお本調査は2024年12月分をもって終了し、2025年1月分からは総務省の「サービス産業動態統計調査」に統合されています。ここで使うのは、この調査として最後の通年データにあたります。
四半期末だけが跳ね上がる
| 月 | 売上高(百万円) | 最少月との比 |
|---|---|---|
| 1月 | 686,143 | 1.00 |
| 2月 | 746,439 | 1.09 |
| 3月 | 1,579,436 | 2.30 |
| 4月 | 702,134 | 1.02 |
| 5月 | 689,032 | 1.00 |
| 6月 | 1,086,106 | 1.58 |
| 7月 | 737,194 | 1.07 |
| 8月 | 722,843 | 1.05 |
| 9月 | 1,291,393 | 1.88 |
| 10月 | 740,901 | 1.08 |
| 11月 | 761,797 | 1.11 |
| 12月 | 1,299,553 | 1.89 |
3・6・9・12月だけが突出し、それ以外の8か月は686,143〜761,797(百万円)の範囲にほぼ収まっています。平常月どうしの差は11%程度で、ほぼ横ばいと言っていい水準です。
3月は平常月の約2.2倍、下期は上期より約11%多い
四半期末以外の8か月を平均すると723,310(百万円)。これに対して3月は1,579,436で、約2.2倍です。四半期末の4か月を平均しても平常月の約1.8倍になります。
半期でも差が出ます。日本の年度に合わせて集計すると、上期(4〜9月)が5,228,702、下期(10〜3月)が5,814,269で、下期が約11%多いという結果でした。
「なんとなく年度末は忙しいらしい」という業界の通説は、数字としても確認できるということになります。
この数字を誤読しないために
ここで一度立ち止まる必要があります。この統計は売上高であって、稼働量そのものではありません。
売上計上のタイミングは「検収」
受託開発では、システムを納品して発注者の検収が完了した時点で売上が計上されるのが一般的です。つまり上のグラフが示しているのは、検収が四半期末に集中しているという事実です。
日本企業の多くは3月決算で、予算も年度単位で動きます。「年度内に完成させたい」という発注側の事情が積み重なった結果、3月末に納品・検収が集中します。6・9・12月の山も同じ理屈で、四半期の区切りに合わせたものです。
開発の稼働は、その数か月手前にある
ここが実務上いちばん大事な点です。3月に売上が立つ案件は、3月に作っているわけではありません。要件定義から設計、開発、テストまで数か月かけて進めてきたものが、3月末に検収を迎えているだけです。
したがって「3月が忙しい」というより、3月末納品に向けた稼働が、前年の秋から冬にかけて積み上がっていると捉えるほうが実態に近くなります。開発会社の手が最も塞がるのは、売上のピークより手前だと考えられます。
逆に言えば、統計上の谷である4〜5月は、年度末の案件を納め終えた直後にあたります。次の山に向けた案件がまだ立ち上がりきっていない時期でもあります。
発注側から見て、実際に何が変わるのか
では、この波は発注する側に何をもたらすのでしょうか。単価表が季節で書き換わるわけではありません。変わるのは金額そのものより、選べる幅です。
声をかけられる会社の数
繁忙期に相談すると、「その時期は着手できません」という回答が返ってくる確率が上がります。5社に声をかけて2社しか手が挙がらなければ、比較検討の前提が崩れます。相見積もりは3社程度が適切とされますが、それは3社が受けられる状況にあることが前提です。
要件定義にどれだけ時間を割いてもらえるか
開発プロジェクトで最も後戻りコストが大きいのは要件定義です。ここが曖昧なまま進むと、後工程での手戻りがそのまま追加費用になります。
繁忙期は、この工程に割ける時間が圧縮されがちです。ヒアリングの回数、画面イメージのすり合わせ、業務フローの確認——こうした「作る前の作業」に十分な時間を取れるかどうかは、発注する時期に少なからず左右されます。見積もり比較の際に画面イメージまで提示できるかどうかについては、その見積もり、金額だけ見ていませんか?——発注前にチェックすべき5つのポイントでも触れています。
交渉の余地
「閑散期だから値引きします」と明示する会社はまずありません。ただ、稼働に余裕がある時期のほうが、スコープの調整や進め方の相談に応じてもらいやすい傾向はあります。金額そのものより、同じ予算で何をどこまでやるかの話がしやすくなる、という理解が実態に近いはずです。
年度末納品から逆算する
「来年3月末までに動かしたい」という要望は実際によくあります。統計が示すとおり、この時期に納品が集中するためです。では、いつ相談を始めればよいのでしょうか。
3月末稼働なら、逆算はこうなります
小〜中規模の業務システムを想定した、一般的な逆算の目安です。
| 工程 | 期間の目安 | 3月末稼働の場合 |
|---|---|---|
| 相談・提案・見積もり | 1〜2か月 | 前年8〜9月 |
| 契約・要件定義 | 1〜2か月 | 10〜11月 |
| 設計・開発 | 2〜4か月 | 11〜2月 |
| テスト・検収・移行 | 1か月 | 3月 |
見積もり依頼から発注までに1〜2か月を見込むのが一般的とされており、社内稟議が必要な場合はさらに前倒しが要ります。3月末に間に合わせたいなら、夏の終わりから秋口には最初の相談を始めておく——これが逆算の答えになります。
この目安は、要件を決められる担当者が発注側に立てられること、既存システムとの連携が限定的であることを前提にしています。関係部署が多く意思決定に時間がかかる場合や、基幹システムとの連携範囲が広い場合は、どの工程も伸びます。
年明けに相談を始めて3月末稼働を目指すのは、規模によっては現実的ではありません。加えてその時期は、受注側が最も立て込んでいるタイミングでもあります。
発注側の事情との噛み合わせ
やっかいなのは、発注する側にも年度の都合がある点です。「今期の予算が余ったので使いたい」「来期予算が確定してから動きたい」といった事情は、いずれも年度の境目に集中します。
結果として、発注側が動きたくなる時期と、受注側が最も混み合う時期が重なります。この構造を知っておくだけでも、スケジュールの立て方は変わってくるはずです。
時期を選べないときにできること
とはいえ現実には、「必要になったから今すぐ相談したい」という場合がほとんどでしょう。事業の都合は統計に合わせてはくれません。時期を選べない前提で取れる手は、いくつかあります。
分けて出す
全部をひとつの案件として動かすのではなく、要件定義だけを先に切り出して依頼する方法があります。要件定義が固まっていれば、開発フェーズで声をかけられる会社の幅も広がります。
範囲を絞って早く出す
「年度内に全機能」ではなく「年度内に中核機能だけ」と割り切れば、必要な期間そのものが短くなります。使いながら育てる前提に切り替えるアプローチです。
納期の根拠を確認する
「3月末」という期限が、実は「年度内であれば理由は特にない」というケースも少なくありません。期限が動かせるものかどうかを社内で確認するだけで、選択肢が増えることがあります。
Amanityでは、まとめて一括で作るのではなく、要件定義や優先度の整理から段階的に進める形での相談も承っています。時期の制約がある場合は、そこを含めて現実的な進め方をご提案します。
まとめ
- 受託開発の売上は四半期末に集中します。3月は平常月の約2.2倍、下期は上期より約11%多いという実データがあります
- ただしこれは検収のタイミングであり、開発の稼働はその数か月手前にあります。手が塞がるのは売上のピークより前です
- 発注側から見て変わるのは金額より選べる幅です。声をかけられる会社の数、要件定義に割いてもらえる時間に効いてきます
- 3月末稼働を狙うなら、前年の夏〜秋には相談を始めるのが逆算の目安です(小〜中規模の業務システムの場合)
- 時期を選べない場合も、分割発注・範囲の絞り込み・納期根拠の再確認という手が残っています
システム開発の相談は、要件が固まってからでないとできないものではありません。「何を作るべきか」の整理段階からご相談いただくほうが、結果的にスケジュールにも費用にも余裕が生まれます。
出典
- 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査」令和6年(2024年)情報サービス業売上高(一般社団法人情報サービス産業協会 集計資料より)
- 経済産業省「特定サービス産業動態統計調査 長期データ」
